ブルーライトカット効果をJINSメガネの透過率を使って検証してみた

ブルーライトカットメガネ(PCメガネ)が世に出てきて久しいですが、自分は本当に効果があるのか、わざわざ買う必要があるのか、疑っています。そしてPCメガネを売るがための宣伝で、多くの人がブルーライトについて誤解しているようです。そこでデータを使って詳しくシミュレーションなども行い、検証してみました。結果を先にまとめると、このようになっています。

  • ブルーライトが有害だとする医学的、科学的に有力な根拠はない
  • 青い光よりも白い光の方がブルーライトが多い
  • LEDディスプレイは従来のものよりブルーライトが少ない
  • 実用的なブルーライトカット率は広告表示よりも低く、色味のついたレンズで約30%、クリアタイプで約10%
  • ディスプレイの明るさを下げればPCメガネと同等の効果
  • 効果があるという人が感じているのはプラシーボ効果

以下、詳しくみていきましょう。

誤解をまねくJINSの宣伝文句

JINS(ジンズ)はブルーライトカットメガネの先駆けで、「ブルーライトを大幅にカット」という売り文句で大々的に広告を打ってヒットしました。ブルーライトカットの眼鏡は付加価値が高く、JINSの場合(JINS SCREENレンズ)は値段がプラス5,000円、ZoffのPCレンズは値段がプラス3,000円。しかもふだん眼鏡をしない顧客層もとりこめるのでビジネスとしてはかなりの成功と言えるでしょう。しかし、その宣伝文句はかなり誤解を与える書き方となっています。こちらがJINSの「ブルーライトが私たちの眼に及ぼす影響」ページからの抜粋。

日常的に浴びる光の中でもブルーライトは紫外線級に強い光。身体への影響が懸念されます。ブルーライトとはパソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイから発せられる強力な青色光のことを指します。紫外線と波長が近い380~500ナノメートルの光で、可視光線の中でも非常にエネルギーが高く、網膜にまで到達するほど

「ブルーライトは紫外線級に強い光」

紫外線が目に有害で、白内障などを引き起こすのはわかっていますが(安藤、1990)、日常的にふれるブルーライトが有害である(しかも紫外線級に強い)という有力な研究はありません。眼光学の専門家、筑波大学の大鹿哲郎教授によると「眼精疲労の原因として、同じ距離に焦点を固定させた作業や眼の病気、ストレスなどがわかっている。しかし、青色光が有害だとする有力な証拠はまだない」とのこと。(2012年10月30日朝日新聞)

参考:Ando, Mitsuru. “Risk evaluation of stratospheric ozone depletion resulting from chlorofluorocarbons (CFC) on human health.” Nippon Eiseigaku Zasshi (Japanese Journal of Hygiene) 45.5 (1990): 947-953.

「LEDディスプレイから発せられる強力な青色光」

「以前は問題なかったのにLEDディスプレイが登場してブルーライトの問題が深刻になってきている」ような印象を与える文章です。下に詳しく説明していますが、実際のところ、LEDディスプレイは従来のディスプレイよりもブルーライトの放出量が少なくなります。さらに、屋外の昼光に含まれるブルーライトの方がLEDディスプレイよりも圧倒的に強力です。

「網膜にまで到達するほど」

このような書き方だと「可視光の中で青色だけが網膜に届く」「網膜に届くのは危険」と思い込んでしまう人もいると思いますが、これは間違い。そもそも光は網膜に到達しなければ見えませんし、すべての可視光は網膜まで到達します。

この文章だとPCモニターや照明を作っている会社が風評被害にあってもおかしくありません。実際、東芝ライテックのページでは、かなり明るいLED照明でも青色光が人体に影響がないことが科学的に説明されています。

ブルーライトとは

そもそもブルーライトとは何か。

まず、光は電磁波の一種で、波長を持っています。人間の目に見える範囲の光を可視光と呼び、JIS Z 8120規格によると「可視放射の波長範囲の短波長限界は360〜400nm 、長波長限界は760〜830nmにあると考えてよい。」とのこと。

この可視光のうち、青色部分がブルーライトになります。ブルーライトの波長の範囲は厳密には定義されていませんが、JINS、ZOFF、ブルーライト研究会のサイトでは380nm~500nmの範囲と記載されています。

ブルーライトの量はブルーライトの波長領域に含まれる光の量で決まります。例えば下はMacBook Pro(2011年)のディスプレイに白を表示したときの分光分布。分光分布とは、波長ごとの光の強さを(分光放射輝度計で)測定したものです。この青色部分の面積がブルーライトの量ということになります。

ここでは縦軸が大切で、絶対値(単位:放射輝度 [W/sr/m2] )である必要があります。(ネット上によくある)縦軸がはっきりしないグラフや、正規化されたデータでは判断できません。

ブルーライトの量が多いのはどっち?

多くの人の誤解をとくべく、ここではいくつかの例をあげてみます。

青 vs 白

R=0
G=0
B=255
R=255
G=255
B=255

ここに青の四角と白の四角がありますが、どちらの方がブルーライトの量が多いでしょうか。直感的には青の四角の方が多い気がしますが、これは間違い。実は白の四角の方が多いのです。

そもそも白色というのは色々な波長の光が混ざってできています。ディスプレイの場合、赤、緑、青(RGB)を混ぜて白色がつくられます。こちらはMacBook Pro(2011年)で赤・緑・青の各色を表示させたときの分光分布データ。

このデータをみると、各色に波長幅があり、例えば緑はブルーライト領域にも光を出していることが分かります。なので上の青と白の四角の例では、ディスプレイの青チャンネルからの出力は同じですが、白の四角は緑チャンネルからの出力もあるのでブルーライトの量が多くなります。実際、MacBook Pro(2011年)のディスプレイの分光分布データを使ってシミュレーションした結果、白色の方が青色よりも10%ほどブルーライトの量が多くなりました。(数値はディスプレイの光源によって異なりますが、常に白色の方が青色よりもブルーライトの量が多くなります)

ブルーライトの量はブルーライトの波長領域に含まれる光の絶対量で決まります。青色に見えるからといってブルーライトの(絶対)量が多いとは限りません。逆に黄色に見えて(=青みが少ない)いても、すごく明るい光ならブルーライトの量が少ないとはいえません。

昼光 vs LED

LEDモニターと屋外の昼光ではどちらがブルーライトの放出量が多いでしょうか。まず、LEDモニターと屋外の昼光の分光分布の形を比較するとこのようになります。縦軸は最大値を1に正規化した相対値。

これだけ見るとLEDモニターには青色領域に大きなピークがあり、危険そうに見えますが、ピークの大きさと有害性には関係がありません。(蛍光灯にはもっと強いピークがいくつかありますが、それによる健康への被害は報告されていません)上に書いたように光の絶対量が重要なので、屋外の一般的な明るさ(輝度:10,000 [cd/m2] )とモニターの一般的な明るさ(輝度:300 [cd/m2] )を考慮してグラフを描くと、このようになります。(縦軸は絶対値)

屋外の方が明るいので当然ですが、昼光の方がLEDモニターよりもブルーライトの放出量が圧倒的(約44倍)に多くなります。他のモニターでも検証した結果、昼光の方が約35〜45倍もブルーライトが多いことがわかりました。ちなみに最近のスマホはどんどん明るく表示できるようになってきています。例えばiPhone 7の最大輝度は約600 [cd/m2]、Galaxy S8の最大輝度は約1,000 [cd/m2]です。しかし、それでもなお屋外昼光に含まれるブルーライトの方が10倍以上多くなります。

LEDモニター vs 従来のモニター

ブルーライトカットメガネの宣伝では、あたかもLEDが従来の光源にくらべてブルーライトが多いように書かれています。本当にそうなんでしょうか?一般的なパソコンやテレビのモニターはLCD方式で、その光源には主にLEDやCCFL(蛍光管)が使われています。今回比較するのはこのLCD(LED光源)モニター、LCD(CCFL光源)モニター、そしてCRT(いわゆるブラウン管)モニター。3つのモニターの明るさ(輝度:300 [cd/m2] )が同じ、白色点が同じ(D65)になるようにシミュレーションした分光分布がこちら。

3つのモニターのブルーライトの量を計算すると、CCFLモニター(0.40)、CRT(0.39)、LEDモニター(0.32)となり、LEDモニターのブルーライトの量が一番少ないという結果(単位:放射輝度 [W/sr/m2] )に。LEDのスペクトルはピークが高いぶん細くなっていて面積(=ブルーライトの量)自体は少なくなっています。

ナナオの研究でも同様にLEDだからブルーライトが強いとはいえないとのこと。

ブルーライトカット率の真実

PCレンズの広告で表示されているブルーライトカット率は正しいのでしょうか。JINSのメガネの波長ごとの透過率(=分光透過率)がこちら。この線をトレースしてシミュレーションに使いました。よく見ると400nm〜500nmの範囲が2倍に引き伸ばされてますね。見えやすくしているのかもしれませんが、研究者的には受け入れがたいグラフ。

JINS PC ライトブラウンレンズは「ブルーライトを約50%カット」と記載されていますが、このカット率はどんな(分光分布の)光をみるかによって変わってきます。380nmから500nmの範囲の透過率を単純に平均すると50.2%になったので、JINSの計算は各波長一定の強さの光をみた場合を想定しているようです。

実際は、ブルーライトをかなりカットしている短波長領域(約430nm以下)に多くの光を放出する光源はモニターなどには使われません。なので、実用的にみればカット率は50%を大きく下回ります。例えばJISで規定されているブルーライトカット率の計算では波長によって重み付けされています。また、神奈川県が15種類のブルーライトカット眼鏡の透過率テストを行なっており、広告に表示されているカット率とJIS規格でのカット率が大きく違うと報告しています。

JINSのPCメガネの分光透過率と、上の3種類のモニターの分光分布を使ってブルーライトカット率を計算した結果がこちら。カット率はクリアレンズが15〜10%、ライトブラウンレンズが35〜30%でした。宣伝されている50%をかなり下回る結果になりました。

JINSに限らずブルーライトカットの眼鏡を購入するときは、各社が独自に計算したカット率ではなく、JIS規格のカット率を聞いてみるといいでしょう。

ディスプレイを暗くすれば同等の効果

ブルーライトカットメガネを買わなくても、ブルーライトの量は減らすことができます。やり方は簡単。パソコンやスマホのスクリーンの明るさを約30%下げれば、色味のあるPCレンズをかけるのと全く同じ効果が得られ、約10%下げれば、クリアタイプのPCレンズをかけるのと全く同じ効果が得られます。

また、明るさを保ちつつブルーライトの量だけ減らしたい場合、スクリーンの白色点をずらして青みを減らす(=黄色くする)のも有効です。先ほどの3つのモニターの分光分布で計算した結果、白色点をD65からD50に変えるとブルーライトの量を約25%減らすことができます。Macならカラープロファイルで簡単に設定できますし、アンドロイドやiPhoneならブルーライトカットのアプリがあります。

ただし、暗くしすぎたり青みを減らしすぎたりして見えにくくなると逆に目が疲れて本末転倒なのでご注意あれ。自分がオススメするのは単純にスクリーンを見やすい明るさ(明るすぎず暗すぎず)に調節して、こまめに休憩しながら作業すること。

PCメガネを使ってみた効果

自分も何日かPCメガネを試してみましたが、少し黄色っぽく見えるだけで目の疲れが軽減されるような効果は感じられませんでした。しかし、普通に生活しているなかでブルーライトの有害性はほとんどないにもかかわらず、PCメガネを使って効果があったという人がかなりいます。これはなぜでしょうか。

多くの場合、プラシーボ(プラセボ)効果という思い込みによるものだと考えられます。人間のプラシーボ効果は非常に強く、治験薬の効果を調べるときなどは必ず考慮されます(参考:武田薬品工業)。

ブルーライトカットメガネの場合にもそのような検証をする必要があります。例えば、被験者を2つのグループに分け、グループ1にブルーライトカットメガネを与え、グループ2には普通のメガネを与えます。このとき、グループ2の人には「ブルーライトカットメガネです」といって普通のメガネを与える必要があります。こうするとグループ1と2に現れる効果は以下のとおり。

  • グループ1:プラシーボ効果+ブルーライトカット効果
  • グループ2:プラシーボ効果

グループ1とグループ2の差をみることで、プラシーボ効果を取り除き、ブルーライトカットメガネの効果のみを検証することができるのです。自分の調べた限り、このようにプラシーボ効果を除いてブルーライトカットメガネの効果を検証した研究はありませんでした。こういう研究はお金を生まないのでなかなか進まないのが現状。

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